故郷・東京・帰る場所

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「自分には故郷がない」と思っていましたが、日本を歩いて旅してみて、故郷であり、帰る場所である東京のありがたさを身にしみて感じました。

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人生観が変わる

「自分には故郷がない」-そう思ってずっと生きてきました。東京生まれの東京育ちの私は、大学時代に地方から東京に出てきてまた地方へと帰っていく友人たちを見るにつけても、故郷があるっていいなあ、とうらやましく思っていました。

ところが今回、日本縦断の歩き旅をしてみて、「東京が自分の故郷である」ということを強く実感させられました。

故郷・東京

旅先では「何処からきたのか」ということを聞かれることが多く、「出身は東京ですが、北海道宗谷岬から歩いてきました」と答えていました。話が就職のことになると、将来は何処で職に就いて暮らすつもりかということもよく聞かれました。

私は東京都の教員採用試験を受けて結果待ちの状態だったため、「東京に帰って教員をします」と答えていましたが、旅の途中までは「(東京は)あんなところでも一応故郷ですから」という断りをつけずにはいられませんでした。

それは大学のゼミで社会学的に「東京」という都市を一年間かけて研究した結果、やはり東京はある意味で異常な都市で、人間が住むのには適さない環境であるという一つの結論が私の中でできていたからです。

しかし、旅も後半戦にさしかかってくる頃には、望郷の念とあいまって、東京という地をこよなく愛し、懐かしく思っている自分に気づき始め、東京のことを「あんなところ」などとは言えなくなってきてしまいました。「故郷は遠くにありて思うもの」の言葉通り、長い間離れてみて、やっと故郷・東京の有難さが身に染みてわかったような気がしました。

帰る場所・東京

また、東京は生まれ育った場所というだけではなく、自分の「帰る場所」があったからそのように思う気持ちが強まったのだということも間違いなくあると思いました。

当時の私の実家は東京で、まだ両親と祖母と一緒に暮らしていましたが、この実家こそが当時の私の「帰る場所」でした。これを痛感したのは岩国で突然の発熱と気分の悪さに急遽帰京したときで、この時ほどわが家(実家)が有難いと思ったことはありませんでした。

「旅は旅立った所に帰るから旅である」というのが私の持論ですが、今回の旅も実家という、そして東京という「帰る場所」があったからこそ成し遂げられたのではないかと改めて考えさせられました。